今回は、2回目の投稿ということで、風力発電について取り上げたいと思います。
日本では、再生可能エネルギーというと太陽光発電が注目されがちですが、実は風力発電は太陽光発電よりも高いポテンシャルを持っています。
2050年にカーボンゼロを達成するためには、風力発電の普及をどれだけ進めることができるかが、大きなカギになると言っても過言ではありません。しかし風力発電の普及を進めるためには、大きな課題があります。
そこで今回は、政府が指摘する風力発電の普及を進める上での課題を取り上げながら、私なりに考えるその解決策についてご紹介したいと思います。
政府が指摘する風力発電の課題については、総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第43回会合)で提示された自然エネルギー庁(以下:エネ庁)の資料「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」を元にしました。
1.調整力の確保の課題
再エネの主力となる風力と太陽光は、天候に左右される変動電源のため、大量に導入した場調整力の確保が必要です。エネ庁の資料では、再エネ5~6割の水準(約7~8千億kWh)を実現するためには、それに対応できるだけの調整力として脱炭素化された火力発電や、水素・蓄電池などの電力貯蔵技術の導入を進めることの必要性が示されています。
私の意見としましては、脱炭素化された火力発電は、二酸化炭素を回収して埋める技術などを使用し、生態系への影響が現段階では未知数の部分が多いため、可能な限り依存度を小さくして、電力貯蔵技術の導入に重点をおくべきと考えております。
電力貯蔵技術は、揚水式発電、蓄電池、水素、フライホイールなどの種類に分かれますが、それぞれの蓄電技術の長所・短所を考慮して、最適な組み合わせにより、費用対効果を最大限にする必要があります。
・水素:長期保存(季節貯蔵)
再エネ電力を水の電気分解などにより、水素化して貯蔵する技術は、コストがかかるデメリットがありますが、長期保存に適しているメリットがあります。そこで、夏場に余った太陽光発電の電気を長期保存し、冬場の発電量が少ない時期に使う季節貯蔵に適しています。
・蓄電池・揚水式発電所:短期保存(1日~1週間)
揚水式発電所と蓄電池は、短期間の蓄電用として主に昼間の余った太陽光の電気を蓄電し、夕方のピーク時や夜間に放電するなど、1日単位で電力の需給バランスを保つ方法に向いています。また、風力発電や太陽光発電の、1週間単位での出力変動(風の強弱・日射の有無)の平滑化にも有効です。
蓄電池は、今後の低価格化により各需要家への普及が期待されます。AI技術により各需要家に設置された蓄電池を、再エネの発電量と電力需要に応じて一括管理することで、需給バランスの最適化を図ることも期待できます。
揚水式発電所は、自然河川では新たな開発余地は少ないと思われますが、都市部の地下に建設する方法もあるのではと考えております。近年増加する都市部のゲリラ豪雨対策として地下に調整池が建設されています。この地下調整池に揚水式発電所の機能を持たせれば、電力需要の高い都市部で電力調整ができるメリットがあり、検討の余地があるのではと考えております。
・フライホイール:瞬間保存(数秒~数分)
フライホイールは、風力や太陽光の瞬間的な出力変動を吸収するのに適しています。同時に慣性力の補強にも有効です。フライホイールは、かつては無停電電源装置(UPS)に多く使われていましたが、現在は蓄電池式のUPSに主役の座を明け渡しています。しかし数年前から、フライホイールに超電導技術を組み合わせて高効率化を図る超電導フライホイールの実証実験が進められています。
超電導フライホイールが実用化され低コスト化が進めば、蓄電池の弱点である「瞬間的な出力変動により寿命が短くなる」という短所を補いながら、慣性力の増強も可能となるので、積極的な導入を検討すべきと考えております。
以下、フライホイールに関する参考記事です。
参考記事1:フライホイールと蓄電池、アラスカの街を照らす
参考記事2:「超電導フライホイール」で太陽光の出力安定化、実用化に前進
参考記事3:回転で電力を貯める「フライホイール型蓄電システム」、日本工営が量産モデルを開発
参考記事4:イギリスの再生可能エネルギーグリッドを安定化させる巨大フライホイールプロジェクト
2.送電容量の確保の課題
エネ庁の資料では、洋上風力発電のポテンシャルの約8割が、北海道、東北、九州と、電力需要が少ない地域にあることが示されています。そこで、導入ポテンシャルのある地域と需要地をつなぐ送電容量の増強に向け、大規模な設備投資と工事のための地元調整を進めることが課題であることが示されています。
以下、この課題を「地元調整」と「資金の調達」の2つの面から意見を述べさせていただきます。
(1)地元調整
地元調整につきましては、再エネを増やすことでカーボンゼロを達成しながら気候変動対策を行うための「未来の世代のための工事」ということを丁寧に説明して、地元の方の理解を得る必要があります。
(2)資金の調達
送電容量の増強には、多額の費用がかかるため、再エネ賦課金に習って「連携線賦課金」などとして電気料金に上乗せする方法もありではないかと思います。電気料金がさらに値上げとなりますが、建設費用を回収できれば値下げできるので、期間限定の賦課金とすることで理解を得る必要があります。
風力発電は、風の状況により出力が瞬間的に変動するという短所がありますが、送電容量の確保により広範囲で連携ができるようになれば、出力変動が平滑化され系統の安定化が図られることも期待できます。
3.系統の安定性(慣性力)の確保の課題
この課題は1の「調整力の確保の課題」とも重なる部分がありますが、ここでは波及事故などの電気事故を想定して、より短期的な視点から系統の安定性の課題を取り上げています。
エネ庁の資料では、風力や太陽光などの非同期電源が増えることで、慣性力(タービンが回転し続ける力)が確保できず、電源脱落等の事故によるブラックアウトが発生する危険性があることが指摘されています。
具体的には、非同期電源が約3~4割(瞬間的に70%)を越えると、大規模発電所が緊急停止した場合に、広範囲に停電が生じる危険性があることが示されています。解決策としては、疑似慣性力機能付きPCSの実用化・非同期電源への設置と、系統への同期調相機の設置が示されています。
私の意見としましては、これらの対策に加えて「1.調整力の確保の課題」でも述べましたとおり「(超電導)フライホイールの実用化・設置」も積極的に行う必要があると思います。フライホイールは質量のある物体が回転する力を利用するため、疑似慣性力機能付きPCSや同期調相機にはない「蓄電能力」を備えています。
大規模発電所が緊急停止した場合、他の稼働している発電所がカバーをして出力を上げるまでの間に、一時的に大きな電力不足に陥ります。この間の不足している電力を補う上で、即応性の高いフライホイールの蓄電能力は有効です。
疑似慣性力機能付きPCSと同期調相機に、フライホイールを組み合わせることで、系統の安定性はさらに強化されるのではないかと思います。
4.自然条件や社会制約の課題
エネ庁の資料では、再エネ5~6割の水準(約7~8千億kWh)を達成するためには、陸上と洋上を合わせて90GWの導入が必要で、その数値を達成するためには、直近2年間平均の2倍以上のFIT認定を2050年まで30年間継続する必要があることが示されています。
・陸上風力の課題
エネ庁の資料では、陸上風力を風速5m/s以上の雑草地・再生困難な荒廃農地などに加えて、特に風力発電に適している山林を開発して導入する必要があることが示されています。そしてその中でもポテンシャルが高い山林は、所有者不明の可能性がある土地が約3割を占め、用地取得が難しいことが課題として示されています。
・洋上風力の課題
エネ庁の資料では、洋上風力は案件形成から実際に導入されるには7~8年程度必要なため、この調整・設計段階から竣工までの工期の長さが導入のネックになることが示されています。
私個人としては、課題を解決して風力発電の開発を進めるためには、太陽光の導入方法を取り入れることが有効ではないかと考えております。太陽光発電は、屋根置きの自家消費用や野立ての投資用をはじめ、導入を勧めるために様々な方法が考案され実用化されてきました。
これらの太陽光で成功した方法を風力発電用にカスタマイズして適用させることも、積極的に行うべきと思います。例えば陸上風力の導入においては、地権者の方との調整の難しさが大きな課題の一つと思われます。
そこで、太陽光を参考にしながら地権者の方にも売電利益が入るような仕組みを考案し、地権者の方を巻き込むことで、導入を加速することができるのではないかと思います。また、所有者不明の山林を有効に活用するためには、法律の改正を含めて積極的な法整備が必要です。
5.コストの課題
風力・太陽光に共通しているのが再エネの低コスト化が進んでいるヨーロッパなどと比較すると、平地や遠浅の海が少ない日本の地理的条件は、コスト面で不利になることが指摘されています。そのため、再エネの導入量が増加すれば、土地造成費や接続費などが追加的に発生する傾向があるため、設置しやすい適地の確保や発電効率の高い機器の開発などにより、再エネ全体の導入コストを低減していくことが課題としてあげられています。
風力に限ると、陸上風力では適地が減少し地権者との調整が必要となったり工事費が増加することがコスト増につながり、洋上風力ではプライチェーンの構築がヨーロッパなどに比べて進んでいないことがコスト増につながることが、指摘されています
私個人としては、風力発電の普及が進んでいるヨーロッパ諸国に比べて日本のコストが高い大きな原因の一つに、気候(風況)の違いがあるのではないかと思います。現在、風力発電の主流であるプロペラ型風車は、強風に弱いという弱点があり、おおむね風速25m/s以上になると暴走を防ぐため停止する必要があります。
ヨーロッパで風力発電の導入が進んでいる地域の気候は、日本よりも強風が少なく風力発電に適した強さの風が吹く日が多い傾向があります。それに対して、日本は台風をはじめとした風速25m/s以上の風の日が少なからずあり、ヨーロッパよりも不利な傾向があります。
実際に、強風により風車が倒壊する事故も発生しており、対策として強風時には風車を地面に寝かせる構造にしている風車もあります。この強風対策は、ヨーロッパなどよりもコストを増加させているのではないかと思います。
また、離島をはじめとする台風の直撃を受け安い地域は、風力発電を設置しにくい傾向にあるため、風力発電の適地の制限につながっている可能性があります。そこで、日本の気候(風況)に合った強風に強い風車を開発し、台風などの強風の被害を受けやすい地域を中心に導入することも、風力発電のコストを削減し普及を進める上で有効な手段の一つではないかと思います。
ここで、日本の気候にあった強風に強い風力発電として、私が注目しております(株)チャレナジーさんが開発中の「垂直軸型マグナス式風力発電機」をご紹介させていただきます。
垂直軸型マグナス式風力発電機は、従来のプロペラ型風車に比較すると発電効率は落ちますが、風速40m/sまで発電可能なので台風のような強風でも、回転数を制御しながら発電可能というメリットがあります。
発電効率が低い点も、従来のプロペラ型風車が発電できない強風下でも発電を継続できることを加味すると十分カバーできることが期待できます。垂直軸型マグナス式風力発電機が実用化され、これまでは強風により風力発電を断念せざる得なかった地域にも、風力発電の普及が進むことが期待されます。
垂直軸型マグナス式風力発電機のような、日本発の日本の気候にあった風力発電が実用化できれば、風力発電の適地が大幅に増えると同時に、日本のメーカーでサプライチェーンを構築できるので、コストの削減につながるのではないかと思います。
まとめ
今回は、エネ庁の検討資料から、風力発電を中心に普及の妨げになる5つの課題をまとめ、それに対する意見を述べさせていただきました。私が、この5つの課題の解決方法として私の意見をまとめますと、以下の3点になります
1.火力発電に依存せずに電力系統の安定化する仕組づくり
(風力発電を導入しやすい環境を整える)
・送電容量の増強
・電力貯蔵技術(蓄電設備)の整備と最適化
・慣性力の確保
2.地権者の方を巻き込んだ導入方法の工夫
・太陽光の成功事例を取り入れるなど
3.日本の気候に合った風車を開発してコストを削減
・強風地域を中心に導入する
・日本発の風車で国内メーカーによるサプライチェーンを作る
風力発電は、洋上・陸上を合わせますと、太陽光発電を上回るポテンシャルがあります。風力発電は、夜間も発電できるという大きなメリットがあるので、広域連携により太陽光発電の短所を補うことが出来ます。日本では、再生可能エネルギーというと、太陽光発電が注目されがちですが、気候変動問題を解決し2050年のCO2排出料ゼロを達成するためにも、風力発電の抱える課題を解決して積極的に導入を進めていく必要があります。
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